足のすぐ下を雪崩が通り過ぎた

アルマティの郊外、車で40分ほど行ったところにチンブラクスキー場がある。標高2200mくらいのところが終点で、一番高いところは3100m。一番上で滑ると高度の影響ですぐに息が上がる。 滑降可能なのは12月から5月くらいまでで、この期間、私は用事がない限…

ネイティブスピーカーとノンネイティブスピーカー

ネイティブスピーカー(NS)とノンネイティブスピーカー(NNS)はどう違うか考えてみた。まず、NSとNNSとの境界はグラデーションである。例えば、マレーシアで生まれ、両親は福建語を話すが、本人は幼稚園から大学までずっと英語で教育を受け、本好きで図書…

ブランデー

休暇のとき何回かニュージーランド南島を旅行した。ポートモレスビーから、オーストラリアのブリスベーンに飛び、そこで一泊して、翌日のフライトでニュージーランド南島の都市クライストチャーチへ向かう。 パプアニューギニア島とオーストラリア大陸は赤茶…

買物ごっこ

海外ではJICAのいろいろな訪日研修のための事前研修で日本語の速習講座の実施を依頼されることがよくあった。速習講座の場合、私は教授項目を「挨拶」「数字」に限定した。「挨拶」の必要性は言わずもがな。「数字」は買物に必要ということで、学習者が自身…

空港の修羅場

私たち夫婦は日本に帰るためシェレメチェボ空港Dターミナルにいた。すでにイミグレーションは通過しており、私たちはのんびりと搭乗案内を待っていた。 トイレから帰ってきた妻が変な顔をしていたので訳を聞くと、彼女はトイレで見たことを語り始めた。 「ト…

型より入りて型より出づる

狂言演者の野村万作の自伝『太郎冠者を生きる』(白水社1984)を読んだ。伝統芸能の若手育成と日本語教師の養成には共通点がある。 「謡にしても、狂言のことばにしても、口うつしで一句一句教えられる。もちろん正座で一対一で先生と向かい合い、先生が子供…

初級レベルの上達

外国語学習の特に初級の段階では実用的な例文(=文型)を暗記することが上達の要になる。使える例文のレパートリーは始めは疎である。学習者が学習の志を継続することによって例文のレパートリーは徐々に密度を増す。ただし、このプロセスは並大抵の努力で…

カザフ人インテリのロシア語愛憎

カザフスタンでカザフ語は国語、ロシア語は公用語として扱われる。ただし、カザフ語は世俗語で抽象的な語彙を持たない。そのため、科学技術などの専門用語を一から作り出す必要がある。公教育制度で「カザフ語学校」、「ロシア語学校」があるが、「カザフ語…

政府専用機

ブルネイ(首都はバンダル・スリ・ブガワン)では日本大使館の中に執務室があった。だから、大使館の業務がとてもいそがしいときは、そちらの仕事を手伝った。 いちばん忙しかったのは、橋本元首相が政府特使としてブルネイに来たときだった。私は元首相が泊…

ブルネイの家

発展途上国では、全般的な生活環境には困難がたくさんある。ただ、住環境だけは日本よりもずっとよくなる場合が多い。私が住んだ一番大きい家はブルネイの家で、大家に家の大きさを聞いたら、敷地が0.5エーカーで建坪が400平方ヤードとか言われた。後で調べ…

パプアニューギニア恐怖の初夜

私がパプアニューギニア(PNG)に赴任したのは1992年7月のことである。赴任先はソゲリ国立高校。ソゲリ高校は、PNGの首都ポートモレスビーから東へ40kmほど行ったジャングルの中のソゲリ村にある全寮制の高校である。 初めてPNGに行かないかという話を聞いた…

スコール

私のポートモレスビーのマンションは、海岸べりの50mほどの丘の上に建つビルの6階にあった。スコールが沖のほうからやってくるのが見えた。晴れているが、急に風が強くなる。あれ、どうしたのかな、と思って窓の外を見ると、遠くに黒い雲が見える。スコール…

この岩山を毎日越えた

パプアニューギニアは日中とても暑いので学校は朝7時に始まる。私は毎朝5時半、まだ暗いうちにポートモレスビーの家を出て、車で学校へ向かった。最初の15分ほどは市街地を行く。次はサバンナ、潅木のところどころにユーカリが生えている乾燥地を行く。ユー…

台北のスーパーで

台北のスーパーで買い物をしていると後ろで声がした。 「私たち田舎者だからこういうところよくわかんないよね。」 私はびっくりした。 その後台湾の先住民の間で日本語が地域的なリンガフランカとして使われていることを知り、驚きは解消した。

台北の喫茶店で

台北の喫茶店で友人と話していると向こうの方から日本語が聞こえてくる。あれっと思って声のする方を見ると、年配の上品な女性たちの集団が台湾語で会話をしているのが目に入った。空耳かと思って再び友人との会話に集中してしばらくすると、また日本語が聞…

日本語の各母語方言

台湾人で東京外大で台湾人の発音の矯正について修論を書いた人が日本語教師に応募してきた。その修論はたいへん興味深く、私はあちこちに付箋を付けながら注意深く読んだ。 その人と話していて清音と濁音の発音の区別について話が及んだ。その人は言った。 …

知本(チベン)温泉にて

私たち夫婦は休暇を利用して、知本(チベン)温泉を旅行した。知本(チベン)温泉は台湾南東部の山中に所在する鄙びた温泉である。 私たちが泊まったホテルに露天風呂があった。中国人は裸体に関する倫理観が強く、露天風呂は水着を着るという話を聞いていた…

台大(タイダー)の教授

定年退官した台湾の最難関校、台大(タイダー)の教授(台湾人)が、日本語を教える仕事に応募してきた。彼も日本語で教育を受けた世代で、流暢な日本語を話した。私は台大(タイダー)の偉い先生相手に粗相があってはいけないと思い、最大限の敬語を使って…

妻、豹変す

台湾で私たちは子供を授かった。妻は妊娠8ヶ月まで台湾で過ごした。それから子供を生むために帰国した。 妻は分娩時に私の立会いを希望していたので、出産予定日前後の2週間私は休暇をとって一時帰国した。ところが、この期間に子供は生まれなかった。私は後…

モナ

エジプト人の学生で私によくなついた子がいた。名を仮にモナとしよう。モナは日本語学科の学生で優秀な子だった。ヒガーブ(頭覆い)を被っているのは、うちが保守的なことを意味した。どんなときも長袖、スカートはくるぶしまで。手と顔以外の肌は人目に晒…

イギリスの歯医者で

エジプトで歯医者に行くのはちょっと怖かった。だから、休暇でイギリスに行ったとき、歯医者に通い、歯を治した。最初の日、レントゲンを撮ると言われた。レントゲン室に入るとチョコレート色の肌の若い綺麗な女性がいた。頭を台の上におくと、カメラが周り…

パルミラ

パルミラはシリア北部のオアシスにあるローマ時代の遺跡である。砂漠の中にオアシス都市全体が廃墟となって残っている。私がここに行ったのは2001年のニューヨークのテロ直後で、中東からは外国人観光客の姿が消え、遺跡の中に作られたホテルの泊り客は私だ…

砂漠の日没

写真は砂漠の日没。初めて砂漠を旅行したとき、双眼鏡を持って行った。実際、遠くを眺めて、とんでもないことに気づいた。砂漠では、肉眼で見た景色と、そのうちの一部を切り取った双眼鏡の中の景色が完全に同一であった!2度目の砂漠旅行からは双眼鏡は持っ…

カザフスタンの忘れな草

. この写真はカザフスタンの美しい街アルマティから4WDで1時間半ほど行ったところにある大アルマティ湖の湖畔で撮った。ここの標高は2500m程度で夏でも涼しい。 黄色い花はキンバイだと思う。おのずと光を発しているような、輝く黄色の美しい花。青いのは忘…

小学校の高学年の時、雀を捕まえようと思い、庭に簡単な罠を作った。ちょうど雀が入るくらいの箱をひっくり返し、その一辺につっかえ棒をして隙間を作り、周りに米をまいた。そして、つっかえ棒に糸を結んで家の中まで伸ばした。私は糸の端を握り、窓を少し…

ブルネイの怪談

ある晩、私の学生のマレー人の女性が自宅でパーティーを開いた。私も招待された。サテー、ガドガド、ナシゴレンなど定番のマレー料理が供される。マレー人はイスラム教徒なので酒はなし。ソフトドリンクやお茶を飲む。このとき、この女性から自分の不思議な…

カザフスタンの最良の日、最悪の日

トレッキングの途中でここも三千メートル以上 最良の日 カザフスタンでは週末よく登山に出かけた。登山道などないところを登るのでガイドを雇った。セルゲイという人。この人と結局3年、いろいろな山に出かけた。登った中で一番高いのはコムソモールという山…

ロシアで見たオペラやバレエ

モスクワにはいくつも立派な劇場がある。 もっとも有名な劇場はいわずもがなのボリショイ劇場。よく知られているように「ボリショイ」は「大きい」という意味で、ボリショイ劇場は「大劇場」。対応する形で、「マーリーテアトル=小劇場」もボリショイのすぐ…

砂漠のピンクと青

砂漠のパリッシュのピンク 私はMaxfield Parrish という画家が若い頃からずっと好きだった。この画家の色使いについていつも不思議に思っていた。例えば、 “Prometheus”の女性の体のピンク。また、”Jason and his teacher”の背景の山のピンクと青。くすんだ…

山羊を屠(ほふ)る

山羊を蒸し焼きにする 山羊を食す シナイ半島の県庁所在地エル・トゥールの郊外で日本隊が中世の城塞都市を発掘しているのを見学した。そこで山羊をごちそうになった。 私はそのとき、「最初」から全部見た。みんなで山羊の群れの中から1匹を選び、それを砂…