ブランデー

 休暇のとき何回かニュージーランド南島を旅行した。ポートモレスビーから、オーストラリアのブリスベーンに飛び、そこで一泊して、翌日のフライトでニュージーランド南島の都市クライストチャーチへ向かう。

 パプアニューギニア島とオーストラリア大陸は赤茶けた土塊が続く。これに対して、ニュージーランド南島は冷涼で、スコットランドのようである。私は異なった風土で過ごしたいと思ったので、ニュージーランドでの休暇を好んだ。

 そのときも同じルートでクライストチャーチに向かっていた。オーストラリア入国の折、私は、空港の免税店で休暇の時に飲むためブランデーを買った。その日は忙しくて開封できず、ブランデーは免税店の袋の中に封印されたままであった。そして2日目、ホテルから空港への送迎バスの中にそれを忘れた。私は、空港でそれに気づいたがもう後の祭り。

 ところが、1時間後、同じバスに乗っていた人が自分のかばんの中に私のブランデーの袋をしまっているのを見た。彼は私に気づいていなかった。

 私は忘れ物をした送迎バスの様子を想像した。まず誰かが「あの東洋人が酒を忘れたよ」と言う。その時点では前に述べた男が全くの善意で「私が届けてやろう」と言う。彼は出発の直前まで誠実に私を探し回り、いよいよという段になって酒をかばんにしまった。それを私が目撃した。私は一連の事情を以上のように想像し、名乗り出ることをためらった。特に、「持ち主に届けよう」というモードから「もうかった!」気分の直後に声がけして、相手を当惑させることをためらった。しかし、その酒の正当な所有者は私で、権利主張について躊躇する必要はないと考え、ブランデーを返してもらおうと思い、立ち上がった。

 ところが、一瞬の逡巡の間に、相手はフライト待ちの人々の中に搔き消えてしまい、二度と見つからなかった。