ブルネイの怪談

 ある晩、私の学生のマレー人の女性が自宅でパーティーを開いた。私も招待された。サテー、ガドガド、ナシゴレンなど定番のマレー料理が供される。マレー人はイスラム教徒なので酒はなし。ソフトドリンクやお茶を飲む。このとき、この女性から自分の不思議な体験について聞いた。彼女は国立公園で動物保護の仕事をしている国家公務員である。のんびりした静かな人が多いマレー人には珍しく、利発な活動的な人。この人がちょっと前に大病をした。かなり重症になってICUに収容された。そのICUに交通事故で瀕死の重傷を負った男性が運び込まれてきた。

 「その日の夜遅く、私は話し声で目を覚ましたの。そして、声のするほうを見たら、チューブとかいっぱいつながれた男の人のそばに女の人が立ってるの。そして、二人で何かを話してた。私は変だなあと思った。そんな夜遅い時間に誰が面会に来たんだろう。どうして入れたんだろう。でも、私も弱っていたから、そのときはまたそのまま寝てしまった。翌朝、医者がその人を診に来たとき、その人が医者に怒った。『どうしてあなたは私の妻が死んだことを私に言わなかったのか』って。ケガがとてもひどいので、誰もその人に同乗してた奥さんが死んだことを話さなかったんだって。だから、みんなどうして奥さんが死んだことがわかったのか不思議がってた。私だけはどうしてかわかった。前の晩、奥さんが彼に言いに来たんだよね。」