カザフスタンの最良の日、最悪の日

トレッキングの途中で
ここも三千メートル以上

 

最良の日

 カザフスタンでは週末よく登山に出かけた。登山道などないところを登るのでガイドを雇った。セルゲイという人。この人と結局3年、いろいろな山に出かけた。登った中で一番高いのはコムソモールという山で約4400mの山。

 カザフスタン最良の日も登山に関わる。私は2004年9月のある日、ガイドといっしょにトレッキングにでかけた。トゥユクスという谷の3400m地点で車を降りる。トゥユクスは岩と雪と氷河の男性的な景観の谷。そこから3800mの鞍部まで登り、標高3000mの隣の谷に降りる。この谷はクンベルスーという名。ここは草原に覆われた女性的な景観の谷。他に一つ違うと景色もぜんぜん違う。そこからさらにもう一つ山を越えるとそこは大アルマティ谷でトレックの終わり。8時間以上歩き続け、疲労困憊して谷に下りた。小川のそばで最後の休憩。そばにブラックベリーがなっていた。これをほおばりながら、小川の水を手ですくって飲む。水がうまい。ブラックベリーもうまい。ああうまい、ああ楽しかった、と感じたのがカザフ最良の日。でも、これはただの話の枕。次に書こうとしている「カザフスタン最悪の日」が話の本題。

 このトレックの途中でヒノキみたいなキリッとした清々しい香りの実を見つけた。ガイドが講釈するに、この実を1週間ウォッカにつけておくと、あな不思議、ウォッカがジンに変身するぞ。それを真に受けて実をたくさん摘んで帰り、日本では発売されていない高級ウォッカ、ルースキー・スタンダールに漬け込んだが、ウォッカはいつまで経ってもウォッカのまんまだった。騙されたことに気づいたのは1ヵ月後だった。

 

最悪の日

 最悪の日も、アウトドアに関わる。ある日曜日、私はマウンテンバイクで、アルマティ郊外にあるコクトベの丘に行った。都心から自転車で30分くらいの行くと風景は一変する。そこは完全な農村。つづら折の山道をのんびり登る。しばらく登っていくと道の上に乳牛が群れている。私がそばへ寄ると、ゆっくりとよける。なんとも牧歌的。小一時間も登ると頂上に着く。うちで地図を見ていて、ここに来ればアルマティ市の南にそびえるザイリスキーアラタウ山脈が一望できるのではないかと期待していたが、実際は森の中で眺望はなし。がっかりする。さらに悪いことに、空が突然曇り、雷鳴が轟いて大粒の雨が降ってきた。まもなく篠突く大雨となる。雨具を持ってこなかったことを後悔する。アルマティは札幌と同じ緯度で、夏でも雨のときはけっこう寒い。大きな木の下で震えながら雨宿りをする。しばらくして雨が小降りになったのでもと来た道を下り始める。私の自転車には泥除けがついていない。だから、雨の日は、回転する前後ろのタイヤが道路の泥を巻き上げ、私は泥まみれになってしまう。この日も、小一時間かけて登ってきた山道を下り始めると、あっという間に泥まみれになった。でも、まあ、それはいつものこと。寒さに震えながら下り続ける。泥と雨が顔に吹き付けてくるので、前を見ていられない…あるカーブを曲がると、目に入ったのは、さっき牛がたくさんいたところだった。私は、高速で下り続けた。そして、目の前の地面に…牛のフンがたくさん落ちているのに気づいた。近すぎてもうブレーキをかけても間に合わない。私は悲鳴を上げようとしたが、そうすると「あれ」が口の中にまで飛び込んでくることに気づき、あわてて口をつぐんだ。