初級レベルの上達

 外国語学習の特に初級の段階では実用的な例文(=文型)を暗記することが上達の要になる。使える例文のレパートリーは始めは疎である。学習者が学習の志を継続することによって例文のレパートリーは徐々に密度を増す。ただし、このプロセスは並大抵の努力では達成されない。継続的な強い動機付けが必要不可欠である。

 レパートリーの密度が増すにつれ、学習者は、例えば、動詞を入れ替えたり、動詞を活用させたりして、より柔軟に例文を運用できるようになる。例文のレパートリーが一定の密度を獲得したとき学習者は初級レベルを終える。

 学習者は覚えた文型を実地に使ってみる。そして、interlocutor(対話の相手)の顔に浮かぶ表情などを通して、自分の使った表現の適切さについてフィードバックを得る。それを基に認識、発話を修整する。

 だから、行動中心アプローチ全盛の時代にあっても、特に、ある言語の運用能力の全般的獲得を目指す学習者に、初級の段階で、文型を構造的に整理、分類したものを提示し、学習者に目標言語の文法の全体像を伝えることは是非とも必要である。

 本稿の最初に「実用的な例文」と書いた。「実用的な例文」とは学習者から見て、この例文を覚えればコミュニケーションの役に立ちそうだと思える例文である。

 ところで、これらの文型をどのように配置するか?そこに関わってくるのが「構造」という概念である。文型の文法的仕組み(=構造)を分析し、学習者に理解しやすい形に配列する。

 教員の指導上の参考に資するため、私は文型を6つのグループに分類した。同一グループの文型の指導手順は同様である。

1

丁寧体の活用形+単文

2

普通体の活用形+単文

3

モダリティ

4

重文・連語の導入

5

たくさんの語彙の導入が必要となるもの

6

その他

 

 

1

わたしは~です

1

これは~です

1

机の上に本があります

1

本は机の上にあります

1

私は東京へ行きます

1

私はりんごを食べます

1

私はチーズが好きです

1

北海道は九州より大きいです。

1

私は1年で夏がいちばんすきです。

1

私はフランスへ料理を習いに行きます

1

あげます・もらいます・くれます

2

私はてんぷらが食べたいです(タイ形)

2

私は写真を撮るのが好きです(辞書形)

2

写真を撮らないでください(ナイ形)

2

相撲を見たことがあります(タ形)

2

私は日本語が話せます(可能動詞)

2

私は京都に行こうと思います(意向形)

2

行け(命令形)、行くな(禁止形)

2

春になれば花が咲きます(バ形)

2

私は子供のときともちゃんと呼ばれました(受身)

2

私は犬にボールを取らせます(使役)

3

写真をとってもいいです(許可)

3

レポートは出さなくてもいいです(不要)

3

パスポートを見せなければなりません(義務)

3

うちで休んだほうがいい(忠告)

3

明日は雨が降るでしょう(推量)

3

明日は雨が降るかもしれない(推量)

3

休みの日はテニスをしたり、散歩に行ったりします

4

明日雨が降ると思います

4

明日雨が降るそうだ(伝聞)

4

来月アメリカへ行くと言いました(推量)

4

ボタンを押すとおつりが出ます

4

雨が降ったら出かけません

4

雨が降っても出かけます

4

ので・のに・から

4

彼が行くかどうか私はわかりません

4

彼がどこにいるかわかりますか(疑問詞+か)

4

あれは自動車を作る工場です(連体修飾)

4

旅行に行くんですか

4

つもり・はず

4

ところ・ばかり

5

イ形容詞・ナ形容詞

5

他自動詞

6

テ形(依頼・現在進行・状態・中止法)

6

用言の普通体

6

尊敬語

6

謙譲語