山羊を屠(ほふ)る

山羊を蒸し焼きにする

山羊を食す

 

 シナイ半島の県庁所在地エル・トゥールの郊外で日本隊が中世の城塞都市を発掘しているのを見学した。そこで山羊をごちそうになった。

 私はそのとき、「最初」から全部見た。みんなで山羊の群れの中から1匹を選び、それを砂の上で押さえつけて、のどを鋭いナイフで掻っ切る。殺し方、殺すときにささげる祈りなど作法があり、それに従わないとhalal(「穢れていない」というような意味)にならない。イスラム教徒はhalalじゃないと食べられない。

 そして、殺した山羊を脚立につるして皮を剥ぎ、腹を割いて内臓を全部取り出してきれいに洗う。ここまで来ると山羊はただの肉の塊になっている。空いた腹にトマト、にんじん、ジャガイモなどいろいろな野菜を詰め込み、それを泥で作ったオーブンの中に入れ、完全にふたをして数時間蒸し焼きにする。

 この肉が実にうまかった。ステラというエジプト・ビールを飲みながら、からし醤油で食べる。腹から取り出した野菜も肉のエキスが染み込んでいてうまい。

 屠殺を見るのはあまり乗り気じゃなかった。誘われていやいや行った。でも、見てよかったと思う。自分も生き物で、他の生き物の命をもらって生きていること、そういうことを改めて実感した。殺される山羊をナンマンダブと拝みたくなった。