カザフスタンにおけるあいさつとしてのキス&ハグ

 カザフスタンの至る所で老若男女が親しげにキスしたり、ハグしたりする光景が、毎日何千回も何万回も繰り広げられている。

 私も、あれをやってみたいなと思ったが、場違いなところで場違いなことをやってセクハラと言われてはたまらないと思い、まずは観察に徹することにした。その結果、次のようなことがわかった。

 まず、キスについて。ほほへの1回のキスは日常的なあいさつである。一般的には、あなたの唇は、相手の、向かって左のほほを目指す。キスをするとき、「チュッ」と音をさせるのを忘れないよう。私は、家内にシャレでキスしたとき、無意識にこの音を出してしまい、勘の鋭い家内から「あんた、それどこで覚えたの?」とのいわれなき糾弾を受け、誤解を解くのにたいへん苦労した。注意が必要だ。相手もあなたのほほのキスしようとするので、角度を間違えるとあなたの唇は相手のほほに届かない場合もある。こういうときはあわてず、騒がず、キスはあきらめ、音を出すだけにする。顔が口のひん曲がったひょっとこのようになってしまうのはたいへん見苦しい。舞い上がらず、自分の顔の形状について省みる心の余裕を持とう。

 キスの主導権は男が持つ。特に今までキスをしたことがない二人がキスするに当たっては男の側のイニシャチブが必要だ。相手もそれを待っている。握手をしたとき、心の高まりにさらに身を委ね、身体間のバリヤーを突き破って相手に顔を近づけよう。

 次にハグについて。ハグはキスよりレベルが高い。ある程度親しい人が長い間別れるときはハグをする。ハグをするときよく相手の背中を軽くたたきます。もっと親しいとハグしながらキスする。キスは、両頬に1回ずつ。まず向かって左、次に向かって右。もっともっと親しいとその次に唇へ軽くキスする。

 キスは男女間、あるいは女性間の習慣です。男同士ではまず握手、そしてハグです。もっと親しい関係だと、男同士でも両頬へのキスの後、唇へのキスがあるみたいだが、私はこれは願い下げだ。

 1年ほど注意深く観察を続け、ようやくハグ&キスの奥義を極めたとの確信ができたので、私は出張から帰ってきた日、意を決して部下の女性をハグしてみた。すべての流れがなんと自然だったことか!その後、私が統括する日本語部では、カザフ式の挨拶が当たり前となった。不思議なもので、異なったコンテキストの中に置かれると、日本人同士でもカザフ式に挨拶するようになる。相手に対する親しみ、好意を体の直接的な接触で確認しあうのはとても自然なことだと感じるようになった。