恋愛と打算

06年8月、私は家内とウズベキスタンを旅行した。このとき私はカザフスタンのアルマティで仕事をしていたので、アルマティから空路タシケントへ入った。

 私は観光旅行では必ず日本語のガイドを雇う。日本語を勉強した人に少しだけでも貢献したいという気持ちもあるし、その国の日本語教育事情を聞くこともできるからだ。このときも、タシケントの東洋学大学日本語学科の卒業生を紹介してもらった。このガイドの案内でサマルカンドを観光した。家内はウズベキスタンから日本へ帰るので、私はガイドと家内を空港で見送り、それから二人でホテルへ帰ってバーで酒を飲んだ。そこでガイドから面白い話を聞いた。

 ガイドによると私たちの前の客は50代の日本人の男性と若いロシア人女性だったそうだ。ウズベキスタンカザフスタンキルギスなど中央アジアの国には旧ソ連時代からたくさんのロシア人が住んでいる。この女性も人種はロシア人でも国籍はウズベキスタンである。二人は、おそらくインターネットの国際的出会い系サイトのようなところで知り合ったのだろう。私のガイドが二人と会ったときには二人はもう婚約していたそうだ。ところが、男の方はロシア語が話せない。女の方は日本語が話せない。ガイドが通訳しないとお互い意思疎通ができなかったそうだ。二人は2週間くらいいっしょにいた。それから男が日本へ帰ることになり、3人で空港へ行った。男が去った後、ガイドは女を車でうちまで送った。そのとき女がガイドに尋ねたそうだ。「日本では何年一緒に住めば永住権が取れるか、知ってる?永住権が取れたら、私、すぐ離婚する。」

 この話の後日談みたいな話が書いてある本がある。

 福澤英敏「国際結婚-ナタリアとの場合」近代文芸社2002

 出版社からすると自費出版だろう。57歳の日本人男性と28歳のロシア人女性の結婚の顛末が、男の立場から思い入れたっぷりに描かれている。この男はお見合い会社の仲介でロシア人女性と結婚するが、ほんの数ヶ月で捨てられる。ある日家に帰ったら、男が女に買ってやったものの一切合財が、ベッドやたんすなどにいたるまで消えており、近くの駅には女の自転車が乗り捨ててあった。

 カザフスタンに赴任したとき、報告書にアルマティの標高を入れるため “height almaty”として、グーグルで検索した。すると、最初にヒットしたのは、若い女性たちの写真だった。何ページにも渡って、写真が載っている。そばにみんな身長(height)が書いてある。国際的な出会い系サイトにつながってしまったのだった。うそかまことか知らないがその女性たちはアルマティに住んでおり、外国人との結婚を希望しているそうだ。

 発展途上国では、先進国の男の「恋愛付加価値」は高い。その国の若い女たちにとって、こうした男性は自分を高みへと引き上げてくれる白馬の騎士に見えるのかもしれない。