冬の靴底の滑り止め

冬のアルマティ


ヤクトラックス

 冬のアルマティは気温がマイナス20度くらいまで下がる。だから、一度雪が降るとそれが根雪となり、2ヶ月ほどは全市がスケート場になる。カザフ人の若い人たちは凍りついた歩道を、ふつうの靴でスタスタと歩いていくが、私はそのそばをそろりそろりと歩く。

 それでも、運が悪いと転んでしまう。ある日、私はスーパーで買い物をして両手に大きな袋をぶら下げ、うちに帰ろうとしていた。うちの近くにちょっとした坂があり、そこが完全に凍結していた。もう真っ暗だったので道がよく見えない。私は慎重に足元を確かめながら歩いたのだが、見事に滑っておしりから着地。本当に痛い思いをした。それに懲りて、インターネットで滑り止めグッズを探した。そして見つけたのがヤクトラックスだった。ヤクトラックスは網状のゴムに金属製のスプリングが巻きつけてあり、靴底全体に装着する。

 ヤクトラックスを靴に付けてから転ばなくなった。たいへん便利であるが、問題もある。

1.ゴムが弱くてすぐ切れる。アルマティのように毎日使うところでは一冬もたない。

2.玄関マットに金属のばねが引っかかり、取れなくなる。私は喫茶店の入り口でゴキブリホイホイ状態になり、ウェイトレスに大笑いされた。

 

簡易アイゼン

 次に簡易アイゼンを試した。Grivelという会社のSpiderという名前のアイゼン。

日本の登山用品店で3000円くらいで購入した。ベルトで靴底に装着する。プラスティックの底からは10本のピンが突き出していて、これが地面に突き刺さる。ヤクトラックスでは氷の路面では役に立たないがこれなら大丈夫。氷結した道を歩くにはこれが一番安定している。しかし、これは実用性がない。

 というのは、氷結した道を歩いた後でたとえばスーパーに入って中を歩くと金属のピンが床に当たってカチッカチッとうるさいことこの上ない。スーパーにいた全員が振り返って私を注目した。しかも、磨かれた石の床では、滑って危ないこと危ないこと。これは1回使っただけでもう2度と使う気になれなかった。

 

ノースフェースの靴

 最後に試したのが、ノースフェースの靴。

 「-32℃まで快適な高い保温性とランニングシューズ並の軽さを両立。オーロラツアーやスノーシューをはじめ、トラベルにも最適です。アッパー素材にハイベントウォータープルーフバリアをラミネートした完全防水仕様。」とのこと。

 靴底はスタッドレスタイヤと同じ材質で、滑りにくいというのも気に入り、購入した。確かにこれはよかった。凍結した雪の上も安心感を持って歩くことができる。欠点は体に静電気がたまること。これをはいてしばらくすると、車のドアの取っ手を触るときなど、いつも痛い思いをした。

 私はあるとき、国立大学の副学長と重要な交渉を行うため、マイナス30度のアスタナに出張した。もちろんこの靴を履いた。副学長と面会し、「お会いできてたいへんうれしいです…オーチン・プリヤトナ!」と満面に笑顔を浮かべて握手したとたん、静電気がバシッと来て、二人で飛び上がった。衝撃的な出会いとなった。