エジプトの「ビール」

 カイロは、1年に20分しか雨が降らないのに、けっこう蒸し暑いところだ。6月から10月くらいまでは東京の真夏のような暑さが続く。

 次に書くのは、エジプトに赴任して間もなく、まだ右も左もわからなかった頃の話である。カイロへの赴任し、最初に住んだのは、職場のすぐそばにあるセミライミス・インターコンチネンタル・ホテルだった。イスラム国では酒類の規制が厳しいが、エジプトではホテルの中では自由に酒を飲むことができた。1ヶ月近くホテル暮らしをし、やっといいアパートを見つけて引っ越した。そのアパートは、ナイル川西岸の高級住宅地、モハンデシーンにあった。引越しは8月で、毎日蒸し暑い日が続いた。引っ越した晩、私は急にビールが飲みたくなった。それで、私のアパートから歩いて15分のところにある大きなスーパーにビールを買いに行くことにした。そのスーパーは、昼間、車でアパートに行くとき見つけたものだった。私はそこで、生活にすぐ必要な物を買い、ついでにドイツ製の「ビール」を買った。3本買ってアパートへ帰ろうと5分歩いたところで、もっと買ったほうがいいと思い、引き返してひえている「ビール」をさらに3本買い増した。そして、浮き浮きした気分でアパートに帰り、栓を抜いて「ビール」をごくりと飲んだ。その瞬間、何かが変だと思った。ビールの味だが、何かが足りない。ちょっと考えて、はたと気付いた。アルコールが入ってない!しかとラベルを見ると、小さい字で「ノンアルコール」と書いてある。やられた、と思った。その晩はビール恋しさに悶々として過ごした。

 後でわかったことだが、エジプトでは一般のスーパーなどにはアルコールは置いてない。キリスト教徒が経営している酒屋があり、そこで酒が手に入る。ビールとかワインはエジプト製がある。ビールではステラとかサッカラが有名である。ワインはまずい。蒸留酒は輸入物があるにはあるが、1000%の関税がかけてあるそうで、とにかく高く、買う気になれない。こういう事情がわかってからは、酒屋でビールをまとめ買いし、冷蔵庫で冷やしておいた。アルコールに不自由することはなかった。