ラマダンのこと

ラマダン・ファヌース


 ラマダンとはイスラム断食月のこと。イスラム教徒はほぼ1ヶ月日出から日没まで断食する。ラマダンは不思議な月である。昼間は非常に宗教的な、聖なるときであるが、夜は、親戚同士、友達同士などで街に繰り出したり、お互いの家を訪ねあったりのお祭り騒ぎが繰り広げられる。深夜まで遊び回り、早朝日出の前に1日分の食事をするために起きるので、昼間の聖なる時は、みんなぐったりして、実に眠そうだ。日没の直後の断食破りの食事、文字通りのbreakfastを家族そろってとらなければならないので、人口1千万以上のカイロ市民が日没の直前、みんないっせいに自宅に戻る。大都市には不合理な習慣である。初めてのラマダンを迎える前、ラマダン月の夕方のラッシュと車の運転の乱暴さはすさまじいと言われていたが、私は半信半疑だった。ふつうのときでも、カイロの渋滞、運転マナーの乱暴さのどちらもすさまじかったからである。ところが、ラマダンの夕方を自分で経験すると、本当に渋滞、運転の乱暴さ、そのどちらもがさらにすさまじくなった。みんな、空腹で苛立っている上、家族一緒のbreakfastに間に合わせようとして必死になるので、カイロ市民1千万が総暴走族化する。ラマダン月の日没直前にカイロの町を歩くのは完全な自殺行為である。

 写真は、ラマダンのときに飾るランタン(ラマダン・ファヌース)を売るおじさん。民族衣装のガラベーヤを着ている。ランタンを飾るのはエジプトだけの習慣である。中世のとき王様が戦争に勝って凱旋してきたとき、カイロ市民がランタンを持って迎えた故事にちなんでいるそうだ。それがイスラム断食月とどうして結び付けられたのかはわからない。

 エジプトで生活していると、例えば、女性により制約が課せられることなどさまざまな文化的な特徴の、どこまでがイスラムの宗教によって規定され、どこまでがアラブの風俗習慣に基づいているのか、迷う事がよくあった。